朝、目が覚めたらこれは全部夢だったんだって思うの。
私は普通の高校生で、好きな人なんかいなくて、友達は沢山いて・・・
私は、何百回も望んだ。
だけど、すべては現実で。
いつもと変わらないの、全く。
朝起きたら真っ先に目に入る自分の部屋の天井。
いつも私が起きてから鳴る意味の無い目覚まし時計。
全部全部いつもと変わらない。
変わらなくていい。
このままで。
私は普通の高校生で、友達は沢山いて、今いるのは自分の部屋で。
これでいい。
私はこれがいい。
だけど、ひとつ・・・
たったひとつだけ変わって欲しかった。
だから朝起きると夢であって欲しいと望むんだ、私は。
私が変わって欲しいこと。
それは、好きな人がいるってこと。
その人の名前は藤田ヒロ。
気づいたのは小学校のとき。
それからずっと私はヒロが好きだ。(一途だなぁ、私)
だけど、ヒロは人気があるんだ。
それはもう上下問わずね。
いつからか、私はヒロを想っている自分が嫌になった。
いつからか、私はヒロの事がわからなくなった。
いつからか・・・
どうしてヒロの事が好きになったのか、分からなくなった。
そんな半端な自分がすごく嫌な人間に思えてきたんだ。
自分の中で何かが絡んでいる。
解こうとすればするほどまた分からなくなる。
複雑な方程式みたいに、答えが見つからない。
「ユナ!早く起きないと遅刻するわよ!!」
またいつもと変わらないお母さんの声。
いつものようにまたリビングから叫んでるんだろうな。
「今行く!」
私はお母さんに返事をして、クローゼットに手をかけて制服を選んだ。
手早く着替えてお母さんのいるリビングに向かう。
朝ごはんは卵焼きと、味噌汁と白いご飯。
今日は和食なんだな。
昨日は確か、コーンスープとパンと・・・スクランブルエッグだったっけ。
「あ、ユナ」
「ん?」
私を呼んだお母さんに、ご飯を食べながら応答する。
「今日ヒロくんに会うでしょ?」
「・・・・・・うん。」
「これ、渡しておいてくれない?」
そう言って私に差し出したのは、一枚の写真。
その写真には、幼い頃の私とヒロが写っていた。
「・・・・・・何これ?」
「ヒロくんのお母さんに頼まれたのよ!その写真失くしちゃったから焼き回しして欲しいって」
「ふぅん」
「渡してよ?絶対よ?」
「・・分かったよ」
お母さんと会話をしているうちに、全て食べ終わってしまったようで、私は鞄をもって『いってきます』と言って家を出た。
いつもと同じ通学路。
いつもと同じ風景。
「全部いつもと一緒だ・・・」
ランニングをしているおじさん、犬の散歩をしているおばさん。
みんなこの時間にすれ違う。
全てが同じ。
そう思ってた。
「ユナ?」
「え?」
「やっぱユナだ!」
「・・・・・・ヒロ」
後ろから名前を呼ばれ、誰かと思って振り返れば、そこには朝から笑顔なヒロがいた。
何でいるの?
いつも学校に来るの、遅いじゃない。
遅刻ギリギリのくせに。
「ユナっていつもこの時間に学校行ってるのか?」
「・・・あ、うん。」
「へ~ぇ!」
いつも通りじゃなくなった。
いつもは私の横に、ヒロはいない。
嬉しいのか、嬉しくないのか、分からない。
自分が分からない。
答えが見つからない・・・
「じゃぁ俺もこれからこの時間にしよっかな~」
「・・・・・・は?」
「ユナと一緒に行きたいし」
「・・・・・・」
「ユナ最近元気ないだろ?・・それにあんま話してないし・・・さ。」
「・・・」
そっか。
気を使ってるんだね、ヒロは。
誰にでもそうだもんね。
私だけじゃ・・・ないんだよね。
「・・そうだね。最近話してないよ、ヒロと。」
「だろ?学校で俺が話しかけようとしてもユナ、どっか行っちゃうし」
「・・・偶然でしょ」
違う。
違うんだよ。
私はヒロを避けてるんだよ。
優しくされると辛いの。
話しかけられるとどうしようもなくなっちゃうの。
複雑な方程式が・・・
ますます解けなくなっちゃうよ。
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