水泳の後の授業はすごく眠い。特に、社会の時間は。今まさにそれで、コックリいってしまいそうだ。
大きなあくびをし、必死に目を覚まそうと目を擦る。しかし、そう簡単に眠気はなくなるものではなく、再び頭がボーっとしてくる。
「・・の!かの!紗佳乃!」
小さく、少し荒っぽい声が隣から聞こえてくる。
「ん・・。」
いつの間にか寝ていたらしい。名前を呼ばれなかったら気付かなかっただろう。
「俺が呼んでなきゃどうなったことやら。」
「うわ。ウザい言い方。」
「感謝の言葉の一つもないのかよ。」
この、皮肉っぽい奴は、幼馴染の前橋和也(まえはし かずや)だ。靖和都の大親友である。そしてコイツは私が靖和都のことが好きということを知っている。最大の弱みを私はこいつに握られているのだ。
「どーも。」
「そんな言い方でいいんだ?」
「何が。」
「分かってるくせに。ばらしてもいいのか~?」
「だ・・駄目に決まってんでしょ!!」
「ちょ。声大き」
「おいっ!橘!・・前橋もか!2人とも立てぃ!!!」
うわ・・。ヤバイ。
そう思いながら、席を立つ。和也に少し申し訳なさを感じた。
「そうだな・・今日は、居残りで資料室でプリントの整頓でもしてもらおうか。」
この先生は、少しでも気に入らないことがあったら居残りさせるという罰を生徒に与える。その代わり、通知表にあまり響かないのはありがたいが・・。
「はい。」
2人で返事をして、再び席に座る。隣から痛い視線を受けなければならないのに無理はない。
すっかり覚めた目であっても、授業には集中できなかった。何故なら、席を立ったとき、窓越しから見えたグラウンドに靖和都が見えたから。眠気によって紛らわされていた今朝の切なさが蘇ってしまったのだ。
集中できない授業を終えて、窓から外を眺めると、靖和都の姿はもうなかった。
「あ~あ!疲れた!」
「だからゴメンて!!!何回謝ったら許してくれるの?」
「一生許さねぇ。」
「えっ!?」
「嘘だって。本気にすんなよ。」
「嘘言うなよ・・。でも、怒ってない?」
「怒ってねぇけど・・何で?」
「いや。別に。怒ってたら嫌だなって思っただけ。」
「ふーん。」
時刻は只今7:16。学校には、運動部ぐらいしか残っていない時間だ。夏だけに、外は少し明るい。
和也と居残り真っ最中。さすがに、4時間くらいぶっ通しでやっていると、どこやらか痛くなってくる。
「ってかよぉ。これいつ終わるんだ?」
「さあ・・。一向に減らないよね。」
「はぁ。喉渇いた。ジュースかって来る。お前もいる?」
「ううん。いいや。お茶あるし。」
「あっそ。」
そういい残して、和也は財布を持って、資料室を出て行った。
少し休憩をしようと思い、椅子に深く腰掛ける。さっきから一人欠けたこの部屋は、さっきとは違う空気を漂わせているように感じた。喪失感・・というのに近いと思う。
遠くから聞こえた、金属バットでボールを打つ音で我に返った。
「やらなきゃ・・。」
そして、ガサガサ音を立てながら、再び作業を始めた。和也に怒られるといけないし。
それから、数分後に和也は帰ってきた。
「この束のプリントが終わったら帰っていいってよ。」
「え?」
「さっき、笹井に聞いてきたんだよ。これ、絶対終わらねぇから短縮できねぇかって。」
ちなみに、笹井とは社会の教師のことだ。
「まぁ、笹井もさすがに多いと思ったらしくて、これ終わったらいいって許可くれたんだよ。ってか、多いと思ったなら早く言えよって感じだけどな。」
「ほんとだよ!あ~。もうくたびれた。」
「さっさと終わらせちまおうぜ。」
「そうだね。・・・あ!」
プリントを取ろうと指をプリントの下に滑り込ませようとしたとき、跳ね返して床に落ちてしまった。その弾みで他のプリントも二・三枚落ちてくる。
「あーあ。」
そういって、落ちたプリントを拾おうとしたとき、他のプリントを踏んで、滑りそうになった。
そこで反射的に、隣にいた和也の服を掴んで支えようとしたところ、構えていない和也の体は簡単に倒れてしまった。
「ってー。」
「いったぁ・・。」
ふと気がつくと、目の前に和也の顔があることに気がついた。しかも、和也の上に私は馬乗りっぽく乗った状態。
「うわぁ!ゴメン!」
すぐさま、和也から離れてさっきまでいた場所に戻る。和也は倒れたまま固まっている。
「か・・和也?怒ってる?」
「・・別に。」
「は・・始めよっと。」
それから黙々とプリント整理をやった結果、学校を出た時間は7:53となった。
「送る。」
「って言っても、家隣じゃん。」
「だからだよ。」
さっきのことから、和也は口数が少なくなった。
一緒に帰ってくれるか心配だったが、帰ってくれるようで安心だ。夜の一人歩きは苦手だから。
家に帰ると、靖和都が真っ先に玄関に来た。そして、隣にいた和也を見ると、外に出て、和也と何か話をして家に帰ってきた。何を話したか知らないけど、帰ってきた靖和都は少し不機嫌だったように感じた。
あとがき
これで第一章終わりです。
一時間くらい、パソコンに向かって考えながらうってたんで疲れました。
すごくグダグダな文ですが、ご了承ください。
第二章は、楽しみにしないでくださいね~。
沙鞍
PR