「紗枝嘩一緒に帰ろう♪」
私の背中をポンとかるく叩いた少女は隣に来てにこりと笑う。いわゆる満面の笑みだ。
「いいよ。それにしても、どうしたの紘美。えらいご機嫌じゃない。なんかあったの?」
「え?別に~。」
まぁ、そこまで知りたいとは思わなかったので、私はそのまま歩いていく。紘美は横で私についてくる。
紘美と私は幼なじみだ。本名、中多紘美。家が隣同士で、いつも一緒にいる。外見は私より背が小さく細身だ。私は紘美が好きだ。もちろん親友として。紘美もそう思っていると願いたい。こっちが親友と思っていても、あっちが思っていなければ意味が無いのだ。
家へ向かう道を歩いていると、ふと目の前に一人の男子が現れた。紘美はそれを見てほんのり頬が赤くなる。私はそれを見るといつも胸が痛くなる。
「よっ!お2人さん。いつも仲が良いねぇ。今帰り?だったら一緒に帰ろうぜ!」
「うんいいよ!」
この男子の名は瀧沢哉。一応幼なじみ。紘美の思い人でもある。
「いいよね。紗枝嘩。」
「うんいいよ。・・・でもいいの?二人で帰んなくて。」
私は小声で紘美に言う。
「いいの。2人じゃ緊張するんだよね。すこし。」
「ふーん。」
やったー!二人と一緒に帰れる!なんて思ってしまう。応援すべき私がなぜ喜んでいるんだ!友達失格だぞ!
「何やってんだ?行くぞー!」
多分、哉は紘美のことが好きなんだと思う。その間に私が入ってはいけない。入る隙なんか無い。
そんなことを考えている私をよそに、楽しそうに話してる紘美と哉。・・・緊張なんかして無いじゃん。良かったかな?よし!ここから一人で帰ろう。
「あれ?紗枝嘩は?紘美知らない?」
「知らない・・・。どこいったんだろう。」
2人が気付くのが遅かった。そのとき、すでに私は別の道から帰っていた。
何とか2人に見つからず、家に到着。私の家は紘美の家と哉の家に挟まれている。だから、帰る道は同じと言うことだ。
ふとカレンダーを見る。2月14日のところに、赤いペンで丸が描いてある。それを見るたびため息。どうせ渡せないチョコなんて作る意味無いのに、ちゃっかり作る用意を買ってしまった。明後日だっけバレンタインデー。友チョコにするか。
やかんに火をつける。すると、携帯がなった。電話のようだ。応答のボタンを押し、電話に出る。紘美だった。
「あっ!紗枝嘩さぁ!」
怒られると思った。でも違った。
「もう心配したんだからねぇ?突然消えて・・・。気悪くしたかと思った。あっ悪くした?」
私はホッと息をつく。
「全然。邪魔かと思って別の道で帰っちゃった。ゴメン。」
「え?全然邪魔じゃないのに。だって一緒に帰ろうって言ったの私だよ?謝るのはこっち。ゴメンね。紗枝嘩。」
私全然分かってなかったんだ。紘美のこと。
「・・・。」
「どうしたの?私変なこと言った?」
「ううん。違うの。あっゴメン。今、火使ってるから。切るね。」
「うん。いきなり電話してゴメン。じゃあもまた明日ね。」
「じゃあね」
やかんからお湯が噴き出す。私の目からも生暖かいものが噴き出していた。・・・チョコ作るか。
『ピンポーン』と家中に響き渡る。紘美が来た合図だ。コートも着た、手袋もはめた、マフラーもした、鞄も持ったし、手提鞄も持った。準備万端で家を出る。いつもどおり家の前には紘美がいた。『おはよう』と毎日恒例の挨拶。よかった。ホントにいつもどおりだ。
学校へ行く道を歩く。ふと、紘美が口を開いた。
「紗枝嘩ってさぁ、好きな人いるんだよね。」
そういえば前いるって言ったんだっけ・・・。胸が痛くなる。うっ!なんて言おう。
「それって誰?教えてよぉ。」
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!苦笑いのまま考える。あっ。これだぁ!
「紘美の知らない人だよ。他校の人!」
「ふーん。どこの中学?」
「んー?どこだったっけなぁ?忘れちゃった!」
ふー。セーフ。
「そっか。明日バレンタインだから、一緒に渡そうかと思ったんだけど、中学分からないんじゃ渡せないね。」
なんだそういうことか。
「あっあのね!今回中学最後のバレンタインじゃん?だから、告白しようと思ってるんだ♪」
えっ?マジですか?
「が、頑張って。」
「うん!頑張る!」
あぁ。昨日紘美がルンルンだったのはこれを覚悟したからか。勇気あるなぁ。
数分後、学校に着く。教室に入ると哉が窓際でクラスの男子と喋っていた。紘美はそれを見つめるばかり、私はその2人を見つめるばかり・・・。
哉が私たちに気付く。すると、こっちに来た。
「おい。紗枝嘩、昨日先帰って・・・。どうしたんだ?」
「別に・・・。私用意しなきゃいけないから。」
「あっ・・・。何なんだよ・・・。」
ほかにどんな手があるのよ・・・。私には分からない!哉は紘美のことだけ考えていればいいんだ。
ガラッと教室の戸が開いた瞬間、みんなが席に座る。担任の長い話が始まる。本を隠して読む。内容が頭に入らない。本を閉じ、ため息をついた。あぁ、家に帰りたい。
またまた数分後、担任が教室から出て行った。みんな次の授業の用意をする。次の授業は理科だ!よし。哉とは席が離れている。これで良いんだ。これで。
帰り道、今日は哉と会わなかった。紘美はがっかりしていたが、私は嬉しいと悲しいの両方だった。
家に帰り、昨日固めておいたチョコをラッピングする。・・・2つ。義理としてあげればいいんだ。そうやって逃げるしかない。それしか無いんだ私には。
家の暖房に温められないように、自分の部屋にチョコを置きに行く。そして、ベットにうつ伏せになる。私はそのまま寝てしまった。
起こされたのは夕飯のとき。母は『寝れなくなるわよ』と一言。そんなの分かってる。多分・・・。
夕飯を食べ終えたので、ソファーにドカンと座り面白い番組はやっていないかと、チャンネルを切り替える。『これだ』というものは見つからず、あきらめて風呂に入ることにした。
風呂のスイッチをいれ、お湯がたまるのを待つ。そのときはもう、お腹が膨れていなかった。
寝るころになり、電気を消し、ベットに寝転がる。・・・ダメだ。眠れない。
結局眠れなかった今晩。ものすごく眠い・・・。でも、学校は行かなきゃ。
いつもどおり支度をして、いつもどおり紘美が来て、 いつもどおりの道を歩いて、いつもどおりの学校につき、いつもどおりの教室に入り、いつもどおりの生徒がいる。いつもと違うのは、この眠たさだけ。
時刻は放課後、私は紘美を待っていた。結果はどうなっただろうか・・・。やっぱりOKなのだろうか?怖いけど知りたくて、だけど知りたくなくて。複雑な気持ちを抑えられぬまま私は待つ。
紘美が戻ってきた。すっきりしたような嬉しそうな顔をしていた。・・・成功したのかな。
「成功?」
紘美は下を見ていった。
「不成功。」
意外な結果だった。私の感は外れたと言うことなのか。あっそうだ。チョコ渡さなきゃ。
「はい。友チョコ。これ食べて元気出してよ。」
「うん。ありがとう紗枝嘩・・・。」
紘美の目にはいっぱいの涙。私は紘美にハンカチを渡す。そしたら私も泣けてきた。もらい泣きというやつだろう。なぜだろう。頭がぼやけてくる。そのとき紘美の声が響き渡ったそうだが、もう私には聞こえていなかった。
私は・・・起きた。起きなきゃ困るけど。
私は今とても不機嫌と嬉しさが混ざった状態。ここは保健室。ここまで運んでくれたのは誰か。もちろん私よりも小さく細身の紘美は無理だ。そこら辺にいる生徒が運んでくれるはずも無い。運んでくれるのはただ一人、哉だ。ちょうど通りかかったらしい。
なぜか、哉と保健室で2人きり。どうすればいいか分からない。それに、紘美がいない理由も分からない。
「あっ・・・そうだ、哉に渡すものがある。」
「え?」
私はベットから降り、鞄を開け、黄色をモチーフにしたラッピングの袋を出す。少し投げやりにそれを哉に渡す。再び哉は『え?』と言った。私があげると思っていなかったようだ。
「あげるよ。」
と一言。なんと可愛げのない・・・。
「・・・あのさ、俺。」
あ・・・。返されるかなぁ。
「要らなかったら返して!」
うわぁ・・・。また可愛げのない。
「あっいや違うんだ。俺・・・物心ついたときから紗枝嘩のことが好きなんだ。紗枝嘩はそう思っていないかもしれないけど。」
「う・・・嘘でしょ?」
「そんなこと、嘘でいう奴がいるか!・・・いるかもしれないけど。でも俺は違う!・・・俺と付き合ってくれ。」
どうすればいい?嬉しいけど・・・。紘美は?もしかしてこのこと知ってる?
「あのさ・・・。紘美はこのこと知ってるの?紘美が今日告白したとき、このこと言った?」
「・・・言った。」
私は『そう』と一言いって、数秒黙った。沈黙がはしる。
そうか、紘美は知っていたからここにいないんだ。私は口を開いた。
「私もね、哉のことずっと好きだった。もちろん今も。」
「じゃあ・・・。」
「紘美には悪いと思うけどそのことずっと隠してた。私と同じように紘美も哉のことずっと好きだったから。それに、最初にこのこと告げたの紘美なんだ。だからなかなか言い出せなかった。私は紘美を裏切れない。ゴメン、哉とは付き合えないよ。」
私は黙って保健室を出て行った。家に帰る道、ずっと泣いていた。人目も気にならないくらい、いっぱい。
それから、私たち3人はどうなったかというと、ただいつもどおり。こんな上手い話は無いってくらい。でも、三人の心の中にはまだ、恋のかけらが散らばったまま。
「あっそうだ。ねぇ、哉!ホワイトデー楽しみにしてるからね♪」
皆さん的に、恋愛系だったらごめんなさい。
友情系にしたつもりです・・・。まぁこんな感じで、沙鞍の小説終了♪
あっ一応ホワイトデー書く予定なので少し楽しみにしといてねー!
(`Д´(@)ノ゛ じゃねぃ!!ふぅ疲れた。
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