聡の友:「おい、行こうぜさっくん」
呆けている聡を引きずるように友人は教室に連れて行く。複数回階段を上り、エレベーター(それも磁力で動く)で上っていく元同級生を横目に見ながら、気の遠くなるほど遠い教室へ向かう。上の階は最上級生の階。
聡の友:「じゃあな」
そう言って、今年三年目の付き合いになる友人は上の階へ向かっていった。
聡のクラス2年G組は、階段からかなり離れている。もっとも、階段を使う生徒は一握りであるため、そう苦情は無い。
聡 :(そういえば、春田たちって二年何組だっけ・・・)
彼は彼女たちの会話を耳にしたことがある。“可愛い子とミステリアスな子の三人のグループの会話を探れ”という企画に参加させられたときに、だ。
よく磨かれていて白く、冷たい廊下。ここで話していたのだが、咲乃がミニブタを、優歌が優斗と優麻という名前の生き物を飼っているらしいことを話していた。
聡は椅子を引きながら、片手で窓を開けた。手入れが行き届いた、学び舎に相応しい教室に、花の香りが吹き込む。
クラスの友A:「なあ、お前、春田のこと好きなんだろ」
クラスの友B:「ちっ、違うよ」
耳に慣れてきた会話。去年までは知らなかったが、この学年では咲乃と美希、優歌の三人は男子に人気が高く、三人の名前を順に尋ねれば、どれかで頷くほどであることを、彼はここ最近知った。
パソコンのディスプレイをふいていると、担任が教室に入ってきた。定年間際の担任は、HRを始める。
聡 :「起立!礼。・・・着席」
担任の長い、あくびを誘う話。聡は片頬を手に預けると、担任の顔を見た。
担任:「俺の学生時代は少し違った。ドアも手動、窓も手動、もちろん椅子
がスライドするなんて有り得なかった。よく木の床にこすらせて音
を立てたもんだ。何より、手で書いてたんだぞ。分かるか?ここに黒
板があって、チョークという棒で書いてたんだ・・・」
日本史でやったことを繰り返す担任を尻目に、始業時刻を横目に認めてから、背筋を伸ばした。
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